一行目。 2005-01-07 - へびあし。


_ 一行目。 2005-01-07

いつも何気なく書いているような日記ではあるが、実は一行目に非常に気を配っている。

というのも、本の虫の私が書店で本を物色する時に基準とするのは、その一行目にきた文章出来だからだ。

「デパートの垂れ幕の上で踊るバザール、バーゲンという文字の前に、枕詞の《秋の》が付けられる頃、透き通った風が悪戯小僧のように街を駆け抜け、私達学生は長い休みと学園祭の間の落ち着かない授業を受ける」

これは大好きな作家、北村薫の「秋の花」の一行目。

これだけで、十分に秋の中にいる自分が想像できる気がする。自分が学生時代の学際直前の落ち着かないフワフワした気持ちをとても的確に、でも柔らかく書いているので、物語に入りやすいと感じるのかもしれない。

本は、大事な空想世界である。昔あったネバーエンディングストーリのバスチアンのように、私は本を読みながら物語の住人になるのが好きなので、すぐに物語に入れる書き出しを好むのだろう。

「くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのである。歩いて二十分ほどのところにある川原である」

これは、川上弘美の「神様」。うまい。

いきなり、突然にこの文章が来る。別に児童書でもないのだ、これは。

この一行で、「え、何なの?くまって?」とその先を読みたくなる。その世界に足を踏み入れたくなる。

そして、実際非常に面白いのだから、脱帽。この人の世界は、一見ファンタジーなのだが、キャラクターはいつもシビアだ。

このように、私にとって読み物は一行目で決まる。

だから自分の文章も、そこに気を配っている。もちろん、毎日そういうわけにもいかないのだけれど、週に一日ぐらいの割合で。

そうでなければ、私の日常なんぞ読んでいても面白くないのでは?と思ったりするからだ。

でも基本は自分のための記録なので、あまり読んでくれる人を意識して脚色するのはどうかとも思っているので、肩の力はぐっと抜いている。

たまにこの日の日記を読んで、こう思ったよ、とメールをもらえたりするのは、本当に嬉しい。

自分の日常で、直接接する事が出来ない人に何らかの影響を与えられたり、感想を持ってくれたりするのはすごい事だと思っている。

そんなのネットの世界を知るまでは、プロじゃないと、お金になるものを書かないと出来なかった事だと思う。

それが、こんなに簡単に手に入る。夢のような事だ、それは。

だから私は、今あなたがこの一行を読んでくれている事に本当に感謝をしている。

あなたが読んでくれている、という形で私を受容してくれている事が、今の私を支えている。

今日の歩数。

19478歩。